さとちゃんツブシからの大脱走事件

 

そう、これは忘れもしない高校一年生のころの話です。
僕は生まれて初めてアルバイトをしたのが、ガソリンスタンドでした。
そのガソリンスタンドのアルバイトに正平(仮名)くんという3コ上の先輩がいました。
僕は正平くんの影響で走り屋に目覚めました。
それが運の尽きでした。

僕は当時バイクに乗っていましたが、正平くんは18歳になり、単車から自動車へと乗り換えたのでした。
バイクに乗っていたころから正平くんの伝説はすごく、
国道沿いにあるアルバイト先のスタンドの前を
すごいスピードでバイクに引きずられながら通っていったり・・・と、
車に乗り換えても、横転事故をおこすなど、とにかくすごい人でした。
正平くんが横転事故を起こして一ヶ月が経ったころでしょうか、
正平くんが車を買い替えたのです。
車はハチロク
その当時まだイニシャルDも連載されてなく、
僕もハチロクがどこの車かわかりませんでした。
なにせ当時、10年車は車検が1年毎にあったほどです。

正平くんは59年式の前期型のトレノGT−APEXを15万で購入したのです。
そう、そのハチロクは正にイニシャルDに出てくる拓海くんのハチロクと
まったく同じハチロクだったのです(ちなみに色も白黒ツートン)。
正平くんはハチロクを購入してから、毎晩ドリフトの練習をしていました。
当時ドリフトの練習場所は港でやっていました(今はもう潰れてしまいました)。
ある夜、僕がスタンドでアルバイトをしていると、正平くんがハチロクに乗ってやって来ました。
「おい、アツシ。今日はアルバイト何時までか?」
と正平くんが聞いてきました。
「10時までです。」と僕が答えると、
「おう、その時間に拾いに行くから待っとけ。」
と正平くんは言い残し、スタンドを後にしました。
僕はまだドリフトを生で見たことがないので、
前々から正平くんにドリフトを見せてほしいと言っていました。
今晩いよいよドリフトを見ることができるのです。僕の心は高鳴りました。

10時に仕事を終え、早々と着替え、正平くんが迎えにくるのを待ちました。
案の定、正平くんは、余裕の1時間遅れでやって来ました。
僕は、正平くんのハチロクの助手席に乗り込み、出発です。
ガソリンスタンドから、普段正平くんがドリフト練習してる港まで車でだいたい30分。
そのあいだにコンビニに寄り、ジュースなどを買いました。
港のそばに来ると、あたりに車や人の気配はなくやたらと長い直線が多いものです。
カーブがあるといっても、ほとんど交差点や直角カーブぐらいです。
港に入ると、あたりは薄暗く街灯がポツン、ポツンとあるだけです。
でも、平坦で何もない広い空間です。
まさにドリフト練習にはもってこいの場所です。
正平くんは、いきなりアクセルを踏み込み、サイドブレーキを引きました。
ギャギャギャ〜〜〜”すごいスキール音とともに、
今までに体感したことのない横Gがきました。
僕はドリフト初体験だったので、何が起きているのか全然わかりませんでした。
呆気にとられている僕を横目に正平くんは休む間もなく、ドリフトを続けます。
15分ほど経ったでしょうか、やっと正平くんは満足したのかスローダウンし、車を止めました。
買ってきたジュースを飲み、一服や、ドリフトの話などをしました。
すると・・・僕は1台の変な車を発見しました。
その車はマーチで、ライトを消した状態でゆっくりと、こっちに向かって来ているのです。
「正平くん。なんか変な車がこっちに来てるよ。」
と、僕が言うと正平くんも、その車に気付き
「気味悪いなぁ〜。アツシ、車に乗れ。帰るぞ。」と言い。
僕と正平くんが車に乗った瞬間!
マーチは、ライトを点けてスピードを上げてきました。
おかしな様子に気付いた正平くんは、すぐさまエンジンをかけ発進しました。
港の広場をぬけても、マーチは後ろについてきます・・・

とその時、僕の横を何かがヒュンと飛んでいきました。
それは、や、レンガです。
なんと後ろのマーチから石やレンガを投げているのです。
「正平くん!あいつら石を投げてる!」
あわてて、正平くんに言いました。すると、正平くんは
な、なぬ〜!?あいつら、ツブシか!?」

僕はツブシに遭って、ボコボコにされたという話を車雑誌で見たのを思い出しました。
僕もボコボコにされる?
と思った瞬間、僕はパニック状態に陥り、
「ぎゃ〜〜〜!!!正平くん速く!速く!逃げて〜〜〜!!!!!!!」
と、泣き叫びまくり。一方正平くんは
うぬぬ、あいつらー。」
と、まだ余裕があるようでした。
その余裕があとで命取りになると知らずに。

港の出口に差し掛かったときです。
港の出口の手前には、90度の直角の右カーブが待ち構えていました。
僕の頭の中では、正平くんは走り屋だからこの右カーブで、マーチを振り切るだろうと思っていました。
もちろんグリップ走行で。

ところが、正平くんはふざけたことをほざいたんです。

練習の成果をみせてやる!」

と・・・。

 

(馬鹿か!?キサマ!!命がかかってるかもしれないんだぞ!!普通に振り切れや!!このボケナス!!!
俺はまだ死にたくないんじゃーーー!!)←以上、僕の心の叫び。

そんな、僕の心の叫びを無視するかのように正平くんはカーブ手前で、サイドブレーキを引きました。
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ〜〜〜〜

見事にハチロクは曲がりきれず、
道をはみ出し、土手を乗り越え3メートル下の更地に着地しました。
しかも、ハチロクはエンストしています。
ツブシの連中も車から降りて、走ってこちらにやって来ています。
手には、なにか金属バット鉄パイプを持っています。
正平くんは、あわててキーを回しました。

”キュルルルルルル・・・・キュルルルルルル・・・・・”

なんと、エンジンが始動しないのです!!!

”キュルルルルルル・・・・

キュルルルルルル・・・・・”
・・・どんどん、ツブシのやつらが近づいてくる!

”キュルルルルルル・・・・

キュルルルルルル・・

ブォンブォン!!”
エンジンが始動した!!

なんと、ツブシが僕たちまで、あと10メートルくらいのとこで、エンジンが始動しました!

”キャキャキャ〜〜”←急発進

命からがら、死ぬ思いでツブシを振り切ることができました。
幸い二人ともケガはなく、正平くんのハチロクも無傷でした(3メートルもの高さから落ちたのに)。
この日僕は、ドリフトとツブシのふたつを初体験することができました。

この半年後に、イニシャルDの連載がはじまり、それを見た正平くんは

俺の時代が来た。」

と、言いました。

僕は、この人はどうしようもない馬鹿か、途方もない大物だ・・・と思った。


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